このページの要点
- 売上連動の報酬は、控除する項目を限定列挙し、確定日・報告・異議・請求・支払の流れと、最低報酬の有無まで書く。税込・税別を明記する。
- 費用は委託者が持つもの、受託者が持つものを項目ごとに書き分け、設備の所有、修繕、受託者が導入した設備の終了時の扱いも決める。
- 食中毒・異物混入・行政処分の責任は、調理・提供、仕様・設備、仕入れの原因別に分け、調査の協力義務と保険も定める。
- 終了時に、メニュー・レシピ・SNSアカウント・顧客データの帰属と引渡し、解約の予告期間、営業許可の扱い、競業避止の範囲を決めておく。
結論:運営を任せる契約は、報酬の算式・費用と資産の区分・責任の原因別の分担の三つで決まる
飲食店の運営を他の人や会社に任せる契約があります。オーナーが店舗を用意し、店の運営を任される側が日々の営業を担う形です。ここでは、店舗の運営を任せる側を「委託者」、任される側を「受託者」と呼びます。料理や接客の腕を生かして独立前に店を任される人、複数の店舗を持つ会社が一部の店を専門の運営会社に任せる場合、オーナーが本業の傍らで店を持ち日々の運営を他人に任せる場合など、さまざまな形があります。
この契約の特徴は、報酬が売上と連動し、店の資産と費用が委託者と受託者に分かれ、食中毒などの事故の責任が受託者に集中しやすいことです。この契約は、お金と責任の線引きで書類の良し悪しが決まります。このページは、報酬の算式、費用の区分、設備と資産、メニュー・レシピ・SNSアカウントの帰属、責任の原因別の分け方、競業避止と終了後の引継ぎに絞って説明します。運営に従事する人の手配や管理のあり方に関する取決めは、このガイドの対象外です。
このページで押さえる四つの点
- 報酬は「売上から何を差し引くか」を算式で示し、確定日・請求・検収・支払の流れまで書く。税込・税別の別と、控除する項目の範囲を明確にする。
- 費用は「委託者が持つもの」「受託者が持つもの」を項目ごとに書き分け、設備の所有、修繕、買い替えの負担も決める。
- 食中毒・異物混入・行政処分の責任を「受託者が全部」とせず、原因が仕様・設備にあるか、調理・提供にあるか、仕入れにあるかで分ける。
- 終了の局面(解約の予告、メニュー・SNSアカウント・データの引渡し、営業許可の扱い、競業避止)を、始まりのときに書く。
契約の法的な性質は、委託者が受託者に店の運営という事務を任せる点で、準委任(法律行為でない事務の委託。民法656条により委任の規定が準用される)に近い形が多く見られます。委任では、受任者(ここでは受託者)は善良な管理者の注意をもって事務を処理する義務を負い(民法644条)、委任者の請求があるときはいつでも状況を報告し、終了後は遅滞なく経過と結果を報告し(同法645条)、事務を処理するために受け取った金銭などを委任者に引き渡さなければなりません(同法646条1項)。報酬については、特約がなければ請求できず(同法648条1項)、事務の履行の後でなければ請求できないのが原則(同条2項)です。つまり、報酬の算式と支払の時期は、契約書で決めて初めて成り立つ仕組みです。
受託者が個人(従業員を使わない個人事業者や一人法人)である場合は、フリーランス法も関係します。委託者が事業のために店の運営という役務の提供を委託するときは、委託する業務の内容、報酬の額、支払期日などを書面または電磁的方法で明示しなければなりません(同法3条。委託者の従業員の有無は問いません)。委託者が従業員を使用している場合は、さらに、役務の提供を受けた日から60日以内で、できる限り短い期間内に報酬の支払期日を定めなければなりません(同法4条1項)。売上連動の報酬でも、確定日・請求・支払の流れは、この支払期日の定めに合わせて組みます。
契約書の題名が「業務委託契約」でも、実態によっては請負(仕事の完成を約束する契約)に近いこともあります。店の運営は、完成する物がなく、継続して事務を行うものなので、通常は準委任の性質をもつと整理されます。ただし、「売上の目標を達成すること」を約束させる条項があると、結果の約束に近づきます。目標は努力目標か、達成が義務か、達成できなかったときの報酬の減額や契約の解除を伴うのかを、書面ではっきりさせておく必要があります。
キッチンカーのように車両を借りて営業する場合の契約はキッチンカー・移動販売のページで扱っています。営業時間外の店舗の一部を他の事業者に使わせる場合の光熱費・保険・原状回復の分担も、このページの費用の区分と責任の分け方の考え方がそのまま応用できます。店の運営に必要な食材の仕入れ条件は仕入れのページで扱っています。
報酬の算式:売上連動のとき、何を差し引くのかを書く
運営の委託では、受託者の報酬を売上に連動させる形が少なくありません。典型は、月の売上から一定の費用や割合を差し引いた残りを受託者の報酬とする方式です。この形は、受託者に売上を伸ばす動機を与える一方、売上が低い月の報酬が極端に小さくなる、あるいはゼロや負になるという危険があります。報酬の算式は、受託者にとって収入の源であり、委託者にとっては固定費の回収の手段です。ここで曖昧な書き方をすると、毎月の精算で争いになりやすくなります。
報酬の決め方の三つの型
固定報酬型
毎月一定額を支払う
- 売上に関わらず金額が決まっている
- 委託者は売上の変動のリスクを負う
- 業績に連動させたい場合は、別に成果報酬を足す
売上控除型
売上から固定費などを差し引いた残りを報酬とする
- 何を差し引くか(家賃、返済、割合など)を算式で書く
- 控除する項目の実額の確認方法を決める
- 売上が少ない月の最低報酬を決めておかないと、受託者の負担が重くなる
歩合型
売上に一定の割合を掛けて報酬とする
- 売上の定義(税込・税別)と割合の根拠を整理する
- 売上の確定方法、返品・値引・不正の扱いを決める
- 割合に上限・下限を設ける場合は、その水準を明記する
「売上控除型」では、差し引く項目が委託者の負担する固定費と重なるため、委託者の都合で控除項目を増減できる書き方になっていないかを確かめます。
売上控除型の算式は、次のように書けます。当月の売上から、あらかじめ定めた控除項目の額を差し引いた残りに、一定の割合を掛けた額を報酬とする形です。この形は、委託者の負担する固定費が、受託者の報酬を減らす計算になるため、固定費の範囲、実額の証憑の示し方、算定の日、疑義があるときの協議が重要です。控除項目に、賃料や借入の返済額のように委託者の事情で変動するものが入っていると、受託者は自分でコントロールできない要因で報酬が変わります。そのような項目を算式に入れるなら、受託者に事前に額が分かるよう、月ごとの固定額として契約書に書く方法もあります。
書き方の例(一般的な例) 報酬の算式の書き方
控除項目
理由「経費」の一語では、何を差し引くかが決まりません。項目を限定列挙し、「これに限る」と書くと、後から控除項目が増えるのを防げます。
最低報酬
理由売上が不調の月でも受託者の生活が成り立つ水準を決めるか、決めないなら、その旨をはっきり了解して契約する。
売上の確認
理由確認の期限と、異議がないときの扱いを決めておくと、精算が遅れて報酬の支払が止まる事態を避けられる。
報酬の精算の流れ(確定から支払まで)
民法648条2項は、報酬を事務の履行の後に請求するのが原則と定めています(期間で報酬を定めたときは624条2項の準用)。支払の時期を契約書で決めておくと、この原則に頼らなくて済みます。
報酬が売上金から差し引かれる形であれば、売上金を誰が預かるかも決めます。受託者がレジの現金を預かって精算するなら、民法646条1項が、事務の処理に当たって受け取った金銭は委任者に引き渡さなければならないと定めています。現金の保管、入金の頻度、口座の名義、レジの締めの方法を契約書か運用ルールで決めておかないと、現金の差異が出たときの責任が曖昧になります。受託者が自己の費用で立て替えた支出については、民法650条1項が、事務を処理するのに必要と認められる費用の償還を請求できるとしていますが、どの範囲を委託者が負担するかは、契約書の費用の区分で決まります。
費用の区分と、設備・資産:誰が持ち、誰が直すか
運営委託の契約書でもっとも書き込みが必要なのは、費用の区分です。店を開けて営業するために必要な費用は多岐にわたり、初期の費用と日々の費用、固定の費用と変動する費用、店の資産に関する費用と営業に関する費用が混在します。これらを「委託者の負担」「受託者の負担」のどちらかに仕分けないと、日々の支払の場面で揉めます。
費用の区分の例(一般的な考え方)
| 費用の種類 | 委託者の負担とする例 | 受託者の負担とする例 | 決めておく点 |
|---|---|---|---|
| 賃料・内装・厨房機器 | 店舗の賃料、初期の内装、厨房機器の購入・設置 | 通常は負担しない | 設備の所有者、買い替えの負担、受託者が追加した設備の扱い |
| 仕入・消耗品 | 通常は負担しない(仕入れを委託者が行う場合を除く) | 食材・飲料の仕入れ、消耗品、備品の補充 | 仕入先の選定の権限、価格の上限、在庫の棚卸し |
| 光熱・通信 | 店舗の基本契約に係るもの | 営業に伴う使用量の分 | 按分の方法、検針の方法 |
| 広告・販促 | 開業時の広告など | 日々の販促(SNSの運営費用など) | 予算の上限、効果の測定 |
| 営業許可・衛生 | 許可の取得費用、設備の基準適合のための費用 | 日々の衛生管理に要する費用 | 許可の名義、更新の費用、保健所への対応 |
| 保険 | 建物・設備の保険 | 営業に起因する賠償責任の保険(食品事故、施設) | 加入者、保険金の受取人、免責金額の負担 |
設備の所有と修繕の分担は、表の次に決める点です。店舗の内装、厨房機器、什器・備品の所有権は、費用を負担した者に帰属するのが自然ですが、契約書に書かないと、終了時に「誰のものか」で争いになります。受託者が自分の費用で導入した設備は受託者のものとするのか、契約終了後に委託者が買い取るのか、そのまま店に残すのか。逆に委託者の設備について、日常の保守点検や小規模な修繕は受託者、大規模な修繕や買い替えは委託者、と線を引く例が一般的です。線引きは、金額(「一件○円以下」)や性質(構造上主要な部分か)で書きます。
参考になるのは、民法の賃貸借の考え方です。民法606条1項は、賃貸人は賃貸物の使用・収益に必要な修繕をする義務を負うが、賃借人の責めに帰すべき事由で必要になった修繕は除かれる、と定めています。運営委託は賃貸借そのものではありませんが、委託者の設備を受託者が使う関係では、同様の考え方で「通常の使用による劣化は委託者、受託者の過失による損傷は受託者」と整理すると、契約書がわかりやすくなります。
確認の問いと理由費用と資産を決めるときの確認
賃料や借入の返済を、報酬の算式の中で差し引くのか、委託者の負担として別立てにするのか。
算式の中で差し引くと、実質は受託者が固定費を負担することになります。どちらの建て付けかで、委託の実態が変わります。
厨房機器が故障したとき、その日の営業の損失は誰の負担か。
修理費の分担だけでなく、修理期間の営業損失(売上の減少)の扱いを決めておきます。売上連動の報酬なら、受託者の収入が減るため、争いになりやすい点です。
受託者が自費で導入した設備を、終了時にどうするか。
撤去して持ち帰る、委託者が時価で買い取る、そのまま店に残す、のいずれかを書きます。何も書かないと、所有権と設置費用の回収で争いになります。
在庫(食材・飲料)の所有者は誰か。終了時の在庫はどうするか。
仕入れを受託者が行うなら在庫は受託者のもの、との整理が自然ですが、終了時に引き継ぐなら買取の条件が必要です。
メニュー・レシピ・SNSアカウント・顧客データの帰属と、終了時の引渡し
飲食店の運営で蓄積される財産は、設備だけではありません。メニューの構成、レシピ、店の写真や動画、SNSのアカウントとそのフォロワー、予約や会員のデータ、運営のマニュアルなどは、店のブランドと収益の源です。これらは、運営を任された人が日々の仕事の中で作り出すことが多い反面、店の名前の下で積み上がった財産でもあります。契約書に何も書かないと、終了のときに「自分が作ったものだから自分のもの」「店のものだから置いていけ」という対立が起きます。
運営の過程で生まれるものと、帰属の整理
| 対象 | 典型的な帰属の考え方 | 契約書に書くこと |
|---|---|---|
| メニュー・レシピ | 委託者が企画を指示した場合は委託者、受託者が持ち込んだ従来のレシピは受託者とする例 | 持ち込みのレシピと、運営中に作ったレシピを分ける。利用の範囲と終了後の使用を決める。 |
| 写真・動画・店のロゴ | 店のブランドに関わるものは委託者とする例 | 撮影者の権利の扱い(利用許諾か、譲渡か)、人物が写る素材の扱い。 |
| SNSアカウント | 店の名前で開設したアカウントは委託者とする例 | ログイン情報の管理者、投稿の承認ルール、終了時の管理権限の引渡し。 |
| 予約・会員・顧客データ | 店の事業に関するデータは委託者とする例 | 個人情報の管理者、利用目的、終了時の返還・削除、受託者個人の連絡先の扱い。 |
| 運営マニュアル・ノウハウ | 委託者の事業のために作ったものは委託者とする例 | 受託者が従前から持っていたノウハウは除外する。 |
表のとおり、「誰が作ったか」と「誰の事業のために作ったか」は一致しません。レシピについては、料理の作り方そのものが著作権で守られるかどうかは、内容の独創性などによって一概に言えません。そのため、著作権の有無に頼らずに、契約で、運営中に作ったレシピを誰が使えるのか、終了後に受託者が同じ料理を別の店で作ってよいのかを決めておくと整理しやすくなります。これを決めないまま競業避止の条項だけを置くと、どこまでが禁止されるのかが曖昧になります。
条文例終了時の引渡しに関する規定の書き方の一例
- 本契約が終了したときは、受託者は、終了日までに、委託者の所有に属する設備、鍵、帳簿、マニュアル、在庫目録を委託者に引き渡します。
- 店舗に関連して開設されたSNSアカウントその他のオンラインのアカウントの管理権限及びログイン情報は、終了日までに委託者に引き渡します。受託者は、引渡しの後に、これらのアカウントを使用しません。
- 運営中に受託者が作成したメニュー及びレシピのうち、店舗の名称のもとで提供したものは、委託者が引き続き店舗で使用することができます。受託者が本契約の前から有していたレシピ及びノウハウは、受託者に帰属し、委託者は店舗以外で使用しません。
- 予約及び会員に関する個人情報は、終了日までに委託者に引き渡し、受託者は複製を保持しません。
レシピの帰属を一括して一方に決めるのではなく、「契約前から持っていたもの」と「運営中に作ったもの」に分け、使える範囲も決める書き方の一例です。
責任の分け方:食中毒・異物混入・行政処分を「全部」にしない
運営委託で受託者の負担が重くなる条項の代表が、食中毒、異物混入、製造物責任に関する責任を、原因を問わず受託者に負わせる定めです。食中毒や異物混入などの責任は、原因を問わず受託者が自己の費用と責任で処理する、といった書き方がよく見られます。しかし、責任の原因は一つではありません。委託者が決めたメニューの構成や仕様、委託者が用意した厨房設備、委託者が指定した仕入先の食材に原因がある場合まで、受託者が負うのは均衡を欠きます。
事故の原因別に見る、責任の分け方の考え方
調理・提供・衛生管理に原因
受託者の運営の過失
- 調理、保存、提供の手順の不備、従事者の衛生管理の不備
- 原則として受託者が負担
- 委託者が定めた衛生管理の基準に従っていたかを確認する
メニュー・仕様・設備に原因
委託者の決定に由来
- 委託者が指定した仕様、レシピ、厨房機器の不具合
- 原則として委託者が負担
- 受託者が懸念を伝えていたかの記録が重要
仕入れた食材に原因
食材の供給者の責任が絡む
- 仕入先を委託者が指定したか、受託者が選んだか
- 仕入先への求償(負担の請求)をどちらが行うか
- 食材の検品の記録を残す
原因が特定できない
調査が尽くされない
- 調査の方法と協力の義務を定める
- 保険の対象かどうかを確認する
- 暫定的に負担し、後で調整する方法を決める
原因の判断をめぐる争いが長引かないよう、調査の協力義務と、暫定的な負担のルールを定める書き方があります。
法律の基本線を確認しておきます。製造物責任法は、「製造物」を製造または加工された動産とし(2条1項)、製造業者等が引き渡した製造物の欠陥により他人の生命、身体または財産を侵害したときの賠償責任を定めています(3条)。調理された料理は加工された動産にあたり得るため、飲食店が提供した料理に欠陥があったことでお客様が被害を受けた場合、製造物責任が問題になる余地があります。ここで「製造業者等」に当たり得るのは、料理を調理して提供した店の営業者です。委託者と受託者のどちらが営業者かによって、お客様との関係での責任の主体が決まります。ただし、お客様に対する責任を負う主体と、委託者・受託者の間でその負担を最終的にどう分けるかは別の問題で、後者は契約書で決めます。
契約当事者間の賠償は、債務不履行による損害賠償(民法415条)の枠で整理されます。債務者の責めに帰することができない事由によるときは賠償の責任を負いません。また、損害の発生や拡大に債権者にも過失があったときは、過失相殺(民法418条)で賠償の額が調整されます。この二つの考え方に沿って、受託者の責任を「受託者の責めに帰すべき事由による損害に限る」と書き、委託者側の原因は委託者が負う、と対にして書くと、バランスが取れた条項になります。故意または重大な過失による場合を別扱いにして、限度額や間接損害の除外が及ばないとする書き方も一般的です。
書き方の例(一般的な例) 責任条項の書き方
責任の範囲
理由「一切」の書き方は、委託者側に原因がある事故まで受託者に負わせ、バランスを欠く。原因別に分けることで、実態に合った負担になる。
行政処分への対応
理由処分への対応は、原因の所在によって負担が変わる。報告の義務を早期に定めておくと、対応が遅れにくい。
保険
理由加入者と対象を分けて書くと、事故の後に「保険が使えない」という事態を減らせる。
営業許可と行政処分の面でも、整理が必要です。食品衛生法55条1項の許可は営業を営もうとする者が受け、同法60条1項・61条により、違反があれば許可の取消しや営業の停止の処分を受けることがあります。運営委託では、許可の名義が委託者なのか受託者なのかによって、処分の宛先が変わります。営業者がどちらであるかを契約書で明記し、許可に関する表明(許可が有効であること、取消事由がないこと)をお互いに行い、処分を受けたときの報告と費用の負担を決めておきます。営業の譲渡や相続などで許可営業者の地位が承継される場合の規定は、同法56条にあります。
競業避止・解約・終了後の引継ぎ、起きがちなこと
運営委託の契約は、始まる時よりも終わる時に問題が起きます。受託者が契約を終えて近くで同種の店を開く、委託者が受託者に十分な予告なく契約を終わらせる、終了後の引継ぎが不十分で店が営業できなくなる、といった場面です。終了の局面のルールを、始まりの契約書に書いておく必要があります。
まず、競業避止(契約期間中や終了後に、同種の営業を行うことを制限する条項)です。受託者が、委託者の店で得た顧客、仕入先、ノウハウを使って競合する店を始めることを防ぐために置かれます。しかし、制限が広すぎると、受託者の営業の自由を過度に制限し、公序良俗(民法90条)に反して無効とされる余地があります。期間、地域、対象となる営業の範囲を、委託者の守りたい利益に見合うよう絞ります。期間は「一定期間」、地域は「店舗から一定の距離」、対象は「同一または類似の業態の店舗の経営」のように、守りたい利益と釣り合う形で具体的に書きます。
次に、解約です。準委任は、委任の規定が準用され、各当事者がいつでも契約を解除できるのが原則です(民法651条1項)。ただし、相手方に不利な時期に解除したとき、あるいは受任者の利益(専ら報酬を得るものを除く)をも目的とする委任を解除したときは、やむを得ない事由がある場合を除き、相手方の損害を賠償しなければなりません(同条2項)。運営委託では、受託者が設備投資や仕入れの準備をしていることも多く、委託者が突然契約を終わらせると、受託者に損害が生じます。そこで、契約書では、解約の予告期間(たとえば○か月前)と、予告のない解約の場合の取扱いを決めておくのが通常です。民法653条は、委任の終了事由として、当事者の死亡や破産手続開始の決定などを挙げているため、個人の受託者に万一のことがあった場合の店の扱いも、あわせて書いておくと実務上有益です。
確認の問いと理由契約を終えるときの確認
解約の予告期間は、準備にかけた期間に見合っているか。
設備投資や在庫の処分に時間がかかる場合は、予告を長めにするか、投資の未回収分を精算する規定を置きます。
終了日までの精算(売上、報酬、在庫、保証金)の順序は決まっているか。
売上の報告と報酬の支払が終了日で止まらないよう、最終精算の期日と方法を決めます。
営業許可の名義は、終了後にどうなるか。
委託者が新たに営業者になる場合は、許可の取得や承継の手続が必要になることがあります。食品衛生法56条の承継の規定や、新規の許可の要否を確認します。
SNSアカウントとデータの引渡しは、終了日に完了するか。
引渡しが終了日に間に合わないと、店の発信と予約の受付が止まります。引渡しの段取りを、契約書の別紙で定めておきます。
運営委託で起きがちなこと
- 報酬の算式で、固定費が売上を上回る月に受託者の報酬がゼロ以下になり、算式の見直しの仕組みがなく、関係が悪化した。
- 設備の所有を決めておらず、終了時に、受託者が自費で導入した機器の扱いで揉めた。
- 食中毒の疑いが出たとき、原因の調査の方法も費用の負担も決めておらず、対応が遅れて店の信用を損なった。
- SNSアカウントのログイン情報を受託者の個人しか知らず、終了時に引渡しを拒まれて店の発信が止まった。
- 競業避止の範囲が広すぎて、受託者が契約後の仕事を見つけられず、条項の有効性が争われた。
食材の仕入れ先との取引は仕入れのページで、トラブル全般の確認の順序はトラブルとよくある質問のページで整理しています。お客様との間の規約の全体像は全体像のページにあります。
よくあるご質問
売上に連動する報酬の契約で、売上の定義はどう書けばよいですか。
売上に消費税を含めるかどうかを明記し、値引・返品・クーポンの扱い、現金売上とカード売上の別、売上を確定する日を決めます。控除する項目は限定列挙して「これに限る」と書くと、後で増えることを防げます。
食中毒が起きたら、受託者が全責任を負うという条項は有効ですか。
契約当事者間の取決めとして直ちに無効とは言えませんが、委託者が指定した仕様・設備・仕入先に原因がある場合まで受託者に負わせると、均衡を欠きます。原因別に分け、原因が特定できないときの協議や調査の協力義務を定める書き方が、実態に合っています。お客様に対する責任と、委託者・受託者間の最終的な負担は別の問題として整理します。
SNSアカウントは誰のものになりますか。
契約書で決めなければ、誰のものかが曖昧になります。店の名前で開設したアカウントは委託者に帰属させ、ログイン情報の管理者、投稿の承認ルール、終了時の管理権限の引渡しを書く例が一般的です。受託者が個人のアカウントで店の情報を発信している場合は、その扱いも別に決めます。
いつでも解約できると聞きましたが、本当ですか。
準委任には委任の規定が準用され、各当事者がいつでも解除できるのが原則です(民法651条1項)。ただし、相手方に不利な時期の解除や、受任者の利益も目的とする場合の解除では、やむを得ない事由がない限り損害の賠償が必要です(同条2項)。実務では、予告期間を契約書で定めます。
終了後に近くで同じ業態の店を出すことを禁止できますか。
競業避止の条項を置くことは可能ですが、期間、地域、対象が広すぎると、受託者の営業の自由を過度に制限し、公序良俗(民法90条)に反して無効とされる余地があります。委託者が守りたい利益(顧客、仕入先、ノウハウ)に釣り合う範囲に絞って書きます。
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本ページは一般的な情報提供です。個別の取引への当てはめは、営業の形態や契約の内容によって異なることがあります。書き方の例として紹介している内容は、契約書作成の実務でよく見られる書き方を整理した例で、特定の事業者や案件を示すものではありません。条文は e-Gov法令検索(法令API)で確認しています。参考: e-Gov法令検索 / 消費者庁 / 厚生労働省 / 個人情報保護委員会